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広島地方裁判所 昭和49年(ワ)586号 判決

原告

須賀定好

右訴訟代理人

江島晴夫

被告

山清青果株式会社

右代表者

須賀清春

右訴訟代理人

河村康男

被告

株式会社 マルマス河野商店

右代表者

河野通昭

主文

一  被告らは原告に対し連帯して金一二五万八、〇〇〇円及びこれに対する昭和四九年九月一〇日から支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告その余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は五分しその四を原告の負担としその一を被告の負担とする。

四  本判決は仮りに執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

原告

一、被告らは各自原告に対し金六三三万八、四八〇円及びこれに対する昭和四九年九月一〇日から支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二、訴訟費用は被告らの負担とする。

三、仮執行の宣言を求める。

被告ら

一、原告の請求を棄却する。

二、訴訟費用は原告の負担とする。

第二、当事者の主張

一、原告の請求原因

(一)  原告は別紙目録記載の建物〈注・コンクリートブロック造陸屋根平家建店舗〉(以下本件建物という)を所有し、石油スタンドを経営しているものである。

(二)  被告山清青果株式会社は右建物の隣に重量鉄骨造三階建選果場を建築することを計画し、被告株式会社マルマス河野商店が昭和四七年八月始頃工事を請負い同年一〇月下旬頃完成した。

(三)  ところが、右工事の杭打ちその他による振動のため、原告所有の本件建物の壁、土間等に亀裂を生じたほか、各所に甚大なる被害を生じた。そこで原告は工事中から被告らに対して、工事の中止を求め、被害の弁償を要求したが、被告らは工事完成後、適正な補償をすると約して工事を続行し、完成させたのである。

(四)  ところで、本件建物の被害について業者に見積らせたところ、壁、土間等の破損の修理、塗りかえ等のため三九三万八、四八〇円を要し、その他修復のため少くとも一五〇万円を要するとのことである。また原告は本件建物においてガソリンスタンドを経営し、純益月額九〇万円以上を得ているのであるが、建物修復のためには、少くとも一ケ月以上を要し、その間休業せざるを得ないので、得べかりし利益九〇万円を喪失することになる。以上述べたように原告は合計六三三万八、四八〇円の損害を豪つた。

仮りに右損害金が一部認められない場合はその限度で原告の蒙つた精神的な苦痛を慰藉料として請求する。

(五)  もともと被告らは、原告所有の建物に近接して、重量鉄骨造の巨大な建物を建築するのであるから、既存の右建物に被害を与えないよう無振動、無騒音工法を採用する等万全の注意をつくして工事を施行すべきであるのにかかわらず、その注意を怠り、工事完成後は被害の弁償をするからというのみで、工事を強行したのであつて当然原告の被害について損害賠償をする責任がある。

しかしながら原告の再三の要求にもかかわらず、全然誠意を示そうとしないので、やむなく本訴請求に及ぶ。

二、被告らの答弁〈省略〉

第三  証拠関係〈省略〉

理由

請求原因(一)、(二)項の事実は当事者間に争いがない。(ただし〈証拠〉によれば建築着手の日時は昭和四七年六月である)

そして〈証拠〉によれば被告マルマス河野が請負つた本件工事は、被告山清青果の作成した工事設計書並びに指示された予算に基いて施行されたもので請負工事としてのパイル打込中原告から震動が激しく原告所有の本件建物につきひび割れが生ずるので工事を中止して呉れと申入れをしたとき被告山清青果の社長は九五ホン以下だから公害にならない、原爆ドームでも復元できる時代だから被害が出れば責任をもつて復元するから工事を進めさせて呉れと回答し又同被告常務取締役も仕事の進捗をはかりたいので原告側の豪る損害については後日話合いをしできる限り善処させて貰う趣旨の各回答をしたこと、本件工事の結果本件建物の土間、防火壁、事務室内、洗面所等建物の全面にわたり二〇ケ所位並びに基礎部分にひび割れが生じたこと、この原因は、本件建物の基礎が杭なしの直接地耐力により支持されているのに被告マルマス河野がこの点を調査せず振動防止の措置をとらすボーリングをしないままに長さ九ないし一六メートル直径三〇センチメートルのパイルを隣接地に一八ケ所二本宛をデイーゼルハンマーでいきなり土中に打ち込んだことに基くものでその振動の程度は本件建物の事務室内で執務していた者が飛び上る程のものであつたことが認められ、〈証拠判断略〉。

右認定事実に徴すると本件工事は被告マルマス河野の請負工事であるが注文者たる被告山清青果の指図に基いたものでありかつ被告山清青果は原告から工事中止の申入れを受けたにも拘わず損害発生ないし拡大につき誠意を以て防止する措置をとらなかつたものということができ本件建物に関する原告の損害発生につき過失あるものといわなければならない。そして被告河野マルマスも本件建物の規模、同被告が業者として専門的技術を有し工事施行方法等につき独自に判断しうる能力を有することに徴し過失を免れない。そうすると被告らは本件建物に関する損害につき共同過失あるものとして原告に対し不法行為責任を負担すべきものである。

そこで本件建物に関する損害の点につき判断するに、〈証拠〉を総合すると右ひび割れ(亀裂)の部分を修理して構造上外観上支障のない範囲に復元するためには八五万八、〇〇〇円の費用を要することが認められ右出費は右不法なパイル打ち込みにより原告の豪つた損害と認めることができる。

つぎに原告は右修理期間内本件建物によるガソリンスタンド営業を休業せざるをえないことに基く損害を請求するので検討するに当裁判所の鑑定の結果によれば休業を要する日数は一〇日間と認めることができ〈証拠〉によれば原告が本件建物により石油販売プロパンガス販売及び山陽商船の委託代行による月間純収入は少くとも合計九〇万円であることが認められるので結局休業を要する期間内の損害は三〇万円と認めることができる。

そうすると本件工事に基き原告の蒙つた損害は合計は一一五万八、〇〇〇円となる。

なお原告は本訴請求金額に充つるまでの慰藉料を請求するので判断するに原告方で杭打ち工事中執務に支障を生じたことは容易にうかがうことができ又中止の申入れにも拘わらず被告らが損害発生防止に何ら顧慮する態度を示さず杭打ち工事を強行したこと等を考慮すると原告は精神上の苦痛を蒙つたこと明らかであつて右物的損害が弁済されてもなおかつ慰藉料請求の根拠を失うことなくその額は金一〇万円をもつて相当と認める。

よつて原告の本件請求は被告らに対し金一二五万八、〇〇〇円及びこれに対する右損害発生の後である昭和四九年九月一〇日から支払済に至るまで年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で、理由があるからこれを認容しその余は失当であるから棄却することとし訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条本文九三条一項但書を、仮執行宣言につき同法一九六条一項を各適用したうえ主文のとおり判決する。

(田辺博介)

目録〈省略〉

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